医薬品業界は、世界的に大きな節目を迎えています。従来、新薬の開発は、考えられる化合物の組み合わせや配合の量を変え、その作用と効果を調べるという作業でしたが、既に組み合わせにも限界が見えてきたといわれています。すなわち、医薬品として有望と思われる化合物の配合パターンが出尽くしつつあることです。
また、大手製薬企業の業績を支えてきたブロックバスター(年間10億ドル以上の売上を誇る医薬品)の多くが、この数年で相次いで特許切れになり始めています。
例えば、2000年度に62億6000万ドルを売り上げ、世界の医薬品売上高で1位となったアストラゼネカの抗潰瘍剤「プリロゼック」、イーライ・リリーの全売上高の25%を占めていた抗うつ薬「プロザック」、ファイザーの抗うつ薬「ゾロフト」などは、特許が切れると同時に売り上げが激減しました。
また、2001年の売上高で世界5位にランクインしていた第一三共のメバロチンも2006年に特許切れになり、2007年には167位と大きく転落しました。さらに、武田薬品の消化性潰瘍治療薬「タケプロン」とアステラスの泌尿器疾患用薬「ハルナール」は2009年、エーザイのアルツハイマー型認知症治療剤「アリセプト」は2010年にそれぞれ特許切れになっています。
現在、世界の製薬企業がゲノム創薬の研究に躍起になる理由はここにあります。従来の開発手法では新薬が徐々に期待できなくなっていることにくわえ、主力製品の特許が迫っているため、業績を維持するためには次の新薬を開発を急がなくてはならないのです。
残念ながら日本の製薬企業はゲノム創薬の研究競争にやや出遅れているという評価が多くなっています。国内で圧倒的な売上でトップを走っている武田製薬でさえ、年間売り上げで見ると世界第一のファイザーの4分の1にも届きません。合併したアステラスや第一三共はさらに少ない売上ですので、企業規模では世界に対抗するのは難しいと考えるのが妥当です。
しかし、日本の研究者のレベルは、依然として世界トップクラスにあります。ゲノム創薬という新たなステージで、日本の製薬企業の巻き返しは十分に期待できます。
以下に治験への参加を希望している方のためによくある質問をまとめてみました。
Q:治験とは何ですか?
A:製薬企業が新薬を開発する際に、厚生労働省の基準に従って行う臨床試験のことです。
お薬の有効性と安全性に関するデータを収集するために行います。終了後は得られたデータを元にして、承認申請に必要な書類を作成します。近年は、製薬企業が自前で行うのではなく、CROと呼ばれる臨床開発受託会社にアウトソーシングする形で実施することが多くなっています。献血と同様に社会貢献を実感できる、謝礼があるなどの理由で参加者は増加中です。
Q:費用はかかりますか?
A:参加者に金銭的な負担が生じることはありません。
使用される薬の候補物質は、開発する側の製薬企業から提供されます。薬の候補物質の投与期間中に実施される検査、X線などの画像診断の費用、対照薬が当たった場合の薬代などの投薬や注射の費用も、製薬企業が支払います。
Q:自分にはプラセボ(偽薬)があたらないようにできますか?
A:残念ながらできません。
薬効成分を含まない薬剤をプラセボといいます。参加者の立場からすれば、プラセボを飲むのは損した気分になり、できるだけ避けたいという気持ちは当然ですが、参加者がどちらを飲むかを決めることはできません。プラセボがあたるかどうかはあくまでも偶然です。そうしないと結果にバイアス(偏り)が生じて、正確な結論が出せません。
Q:途中で体の具合が悪くなった場合、対処してもらえるのでしょうか?
A:もちろんです。
参加者が必ず目を通す説明文書にも、万が一、健康が損なわれた場合には、必要な治療を行うことが明記してあります。治験中は、一般的な治療と同じかそれ以上に、医師は参加者の体に起こる変化について、詳細に調べ、すばやく対処できるようになっています。なにかいつもと違うなと感じたら、どんなことでも遠慮せずに、医師に伝えるようにしてください。
参加者には負担軽減費の名目で謝礼が支払われますが、お金を受け取るからといって、効果を感じない薬に「症状が治まった」などと申告したり、具合が悪くなったのに我慢したりするなどということは、一切する必要はありません。
Q:治験が終わったら、その候補物質はもう飲めないのでしょうか?
A:持病をお持ちの方の場合、医師にその旨を伝えると可能な場合があります。
従来、厚生労働省の承認を得るまで、その薬の候補物質を手に入れることはできませんでした。
治験中にせっかく具合がよくなったのに、終了したら使えないというのでは、患者さんにとって不都合です。
そのため、現在では終了後も継続したいという希望する患者さんには、その薬の候補物質を継続的に使えるようになりました。終了後もその候補物質を飲み続けたいと思うのならば、その旨を医師に伝えるとよいでしょう。
せっかく条件にあった案件に応募しても、治験に進む前の段階で弾かれてしまうケースが増加しています。応募する際には、以下の項目に該当しないようにお気をつけください。
1.電話で本人確認ができない…どんな募集サイトであっても、本人確認のための電話があります。住所や氏名、健康状態を改めて確認するだけの簡単なものですが、携帯電話を連絡先にしている場合、セールス等と勘違いして電話に出ないなど、連絡がつかないケースが多くなっています。
2.過去90日以内に参加した経験がある…正確なデータを把握するため、全く別の症例に対するお薬であっても、過去90日(ケースによっては120日)以内にモニター参加の経験がある方は、弾かれてしまいます。
欧米などの世界各国で既に承認・発売され、患者さんの様々な病気の治療に使用されているにも関わらず、日本国内での承認・発売が数年遅れることがあります。これが近年問題となっている「ドラッグ・ラグ」です。
原因の一つは、新薬の承認審査に米国の2倍、欧州の1.5倍の時間がかかることが挙げられます。その背景には、日本国内では治験の内容、各種手続き、申請書類等の審査を専門に行う行政官(薬剤師や臨床薬理学の専門家で構成)の数が圧倒的に少ないことが挙げられます。
また、米国は日本のような国民会保険制度が確立していないため、医療費が非常に高く、医薬品の費用が無料になる治験に積極的に参加する人が多く、大規模な治験も参加者が集まりやすいというメリットがあります。
一方、日本では国民会保険制度があるため、安全性や有効性を確認するための治験に参加しようという要素が少なく、未だに人体実験という誤解が強く残っているため、治験の参加者がなかなか集まらないため、承認申請に辿り着くまでの期間も長くなってしまいます。
ドラッグ・ラグを解消し、新約が1日でも早く患者さんの治療に使用できるようにするためには、まず承認審査を行なう行政官の人数を増やすことが急務です。米国の承認審査機関であるFDAは2000人、英国は700人で審査を行いますが、日本は200名といかにも貧弱な体制です。現在、厚生労働省は人数を大幅に増員する予定です。加えて、国民の治験に理解を深めることも必要です。