同意を得た少数の患者さんに行なわれる第U相試験(フェーズU)

抗がん剤はこの段階で申請

比較的軽度な少数例の患者さんを対象に、第T相試験で安全性が確認された用量の範囲内で、治験薬の安全性と有効性、その用法や用量などを詳しく調べるものです。

第U相試験はさらに、同意を得た少数の軽度な患者さんに対して、主に対象疾患や病状、適切な用法や用量を調査する「前期試験」と、数百人程度の患者さんに対して、主に有効率と副作用を調査する「後期試験」に分けることができます。

また第V相試験の実施にあたっての用法や用量を決定するという目的もあります。そのため、当初は少数の患者さんに少ない容量の治験薬を投与し、次第に患者数と用量を増やし、期間を長くすることで、最も薬効の高い用法と用量を見つけていくのです。

試験ではしばしば、一見すると本物に見えるが薬効成分が含まれていない「プラセボ(偽薬)」を被験者の1グループに投与することで、治験薬の本当の治療効果を実験的に明らかにします。この際、被験者には、投与された薬剤の情報は伏せられています。

こうした方法を採用するのは、薬が投与されたと信じることで、薬効の有無にかかわらず、しばしば患者さんに何らかの治療効果がみられるためです。特に痛み、下痢、不眠などの症状に対しては、多くの場合、プラセボ効果が生じるといわれています。

そのため二重盲検法では、被験者を、治験薬を投与するグループとプラセボを投与するグループとに分けて、その治療効果を比較することで、「心理的な治療効果」のバイアスを取り除くのです。

なお二重盲検法は、第V相試験において、既に効果が確認され市販されている薬剤と治験薬との治療効果を比較する際にも行われています。

毒性の強い抗がん剤に関しては、この第U相で主要収縮効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行なうことがあります。

二重盲検法:患者さんと医師の心理的なバイアスを除く

ダブル・ブラインド・テスト

被験者に使用される治験薬の内容が事前にわかると、患者、医師の双方に心理的なバイアス(偏り)が生じてしまいます。例えば、治験薬の内容を知ることにより、被験者には反応性に、医師には患者選択、補助療法、観測評価などに偏りが生じる可能性があります。

これらのバイアスを除くために、治験薬の内容を、医師、患者の双方に知らせない方法が二重盲検試験(ダブル・ブラインド・テスト)です。

まず治験薬(実薬)と、実薬と外観は同じですが薬理作用のないもの(プラセボ:偽薬)を用意します。統計の専門家がこの二つを無作為に順序づけ(割り付け)、記録を保持します。

こうして実薬かプラセボかわからないものが医師に送られ、患者に投与されます。投薬後、医師は有効・無効を判定し、全症例の結果が出てから割り付け表が公表されます。これをキーオープンといいます。

この結果を統計処理し、治験薬の成績がプラセボの成績よければ、薬理作用があることが証明されたことになります。

二重盲検試験は治験の第V相試験(フェーズ3)で主に行なわれますが、現在は薬理作用のないプラシーボに代わって市販の標準薬を用いる比較試験が多く、この場合は治験薬が標準薬より効くか効かないかを調べることになります。

標準薬がない病気では、プラセボを使用しなければ新薬が世に出せません

偽薬で実薬の効果を証明

プラセボとは、薬の効果を科学的に検証するための治験で使われる、薬効成分を含まない薬剤のことをいい、具体的には、錠剤では乳糖やでんぷん、注射薬では生理的食塩水などが用いられています。

薬効成分を含んでいないのですが、外観や味は本当の薬とそっくりであることによる暗示効果に病状の自然変動などが加わって、患者さんの病状が改善するケースが少なくありません。これを一般に「プラセボ効果」といいます。

人間は先入観にされやすいものです。治験でも、使用されているのが本当の薬なのかプラセボなのかを知っていると、患者さん自身や医師の先入観が効果の評価に影響する恐れがあります。

それを避けるための手法が、患者さんにも医師にも薬かプラセボなのかがわからないようにして試験を行なう二重盲検試験です。

ただし、プラセボ群の人たちの治療が遅れる可能性があるという倫理的な問題もあります。そのため近年は、プラセボではなく、その病気の標準薬と比較することが多くなっています。また、基本的な治療薬に加えて「治験薬を併用する群」と「プラセボを併用する群」を比較して、参加者が不利益を受けないようにすることもあります。

ただし、標準薬がない病気では、プラセボを使って治験を行なわないと新薬が世に出せません。また、実際に使われている薬との比較試験で「劣っているとはいえないため、ほぼ同等の効果を持つと考えられる」という新薬が承認されることを繰り返していると、効果がない薬が登場する可能性があります。有効な新薬が登場するためにも、プラセボの役割は大きいのです。