CRAは製薬企業の立場から治験のモニタリングを行います

逸脱を未然に防いで、質の高いデータを収集します

CRA(臨床開発モニター)は、治験の依頼者である製薬企業の立場から、医療機関で行われる治験が、実施基準(GCP)や計画書に沿って正しく行われているかどうかの監視と確認(モニタリング)を行います。治験の質はこのモニタリングに依存していますので、その責任は重大です。

CRC(治験コーディネーター)と業務内容は非常に似ていますが、治験を実施する医療機関の立場からチェックを行うので、双方の立場に大きな違いがあります。

ただし、担当医師や患者と接する機会が多いうえ、その業務において医薬品に関する知識が幅広く求められるため、看護師や薬剤師、MR(医薬情報担当者)、臨床検査技師など、医療職で活躍されていた方からの転職が多いという点はCRCと全く同じです。CRAは通常、CRO(受託臨床試験機関)に所属しています。

CRAの責務のなかで最も重要なことは、治験が実施計画書を遵守して実施されているかどうかをモニタリングすることです。言い換えれば、実施計画書からの逸脱をいかに防ぐかということになります。その意味から、治験の実施医療機関において、エントリーされた第1症例目を十分にモニタリングすることが大切です。

実施医療機関からエントリーの連絡が入ったら、CRAはまず治験責任(分担)医師を訪問し、エントリーされた被験者が対象患者の選択(エントリー)基準に合致しているかどうか確認しなければなりません。万が一、被験者が除外基準に該当していれば、エントリーの中止を医師に申し入れなければなりません。このCRAのアクションでエントリー時の逸脱を未然に防ぐことができます。

対象患者がエントリー基準を満たしていたら、CRAは医師に、治験開始時に実施する観察・検査の確認、治験薬の投与に関する確認、次回来院日とその際に実施すべき事項の確認等を行います。このエントリー時のモニタリングを確実に実行することで、医師が、具体的な被験者を介在することにより、実施計画書の具体的理解を深めることになり、計画書からの逸脱を防ぐ対応となります。

そして、被験者の来院日以降に再び医師を訪問し、実際の実施内容を確認します。その際、被験者の次回来院日と指示されている観察と検査に間違いがないかどうかを確認します。もし、何らかの齟齬があった場合には修正を行い、計画書からの逸脱を防ぎます。

CRAはこのようなモニタリングを繰り返し行うことで、実施計画書を遵守した症例を集積することができます。もし、実施計画書から逸脱を発見した場合には、医師に逸脱記録を作成してもらい、依頼者である製薬企業と医療機関の長に提出するように要請を行います。

近年はGCP不遵守で実施されることは滅多になくなりましたが、実施計画書から逸脱して治験が行われる事例は散見されるのが実態です。逸脱を防ぐためには、医師やCRCの協力体制が不可欠であり、お互いの連絡を密にして、コミュニケーションを取りながら治験を実施することが求められます。

もう一つのCRAの責務として忘れてはならないのは、モニタリングを通じて、治験薬を投与された患者さんの声(治験薬の反応)を症例ごとに、医師やCRCから聴取して検討を行い、薬の有効性と安全性に関するプロファイルを明確にしていくことです。この「治験薬の反応」という情報は、CRAからしか得られない貴重な臨床データです。

また、治験の依頼者である製薬企業は、モニタリング業務を通じて、治験薬の安全性を継続的に評価する責任を有しており、CRAは特に安全性に関する情報の収集には、万全を期す必要があります。