治験の業務効率化を担うCRO(受託臨床試験機関)の役割と今後の展望
治験を行う際に製薬会社が直接、医師(臨床試験実施医師)を雇うことは、自社製品に都合のいいようにデータの捏造や改竄を行う恐れがあるため、治験は医療機関に委託されて行われます。
多数の被験者と様々な診療科の参加が求められるため、委託先の多くは国立大学病院で、そこには治験責任医師の下、様々な診療科の医師の医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師がチームを組んで治験にあたります。
治験では、被験者の募集に始まり、同意取得の補助、スケジュールの管理、被験者へのフォロー、厚生労働省への報告書作成補助など、様々な作業が発生します。
1つの医薬品が誕生するには10年以上の歳月と、数百億円以上という莫大な開発費用がかかります。また、新薬の候補が必ずしも治験のステージに達するとはかぎりません。そのため、製薬企業が上記の作業を行うスタッフを正社員として常に雇用しているのは、コスト面で大きな負担となります。
そこで、新薬の開発業務のなかでも特に時間がかかる治験業務だけを必要なときに外部機関に委託(アウトソーシング)することが、一般的になりました。この業務を受託し、製薬会社の業務効率化の一端を担っているのが、CRO(受託臨床試験機関)です。
CROの具体的な業務としては、まず治験が始まる前に、治験を実施する医療機関の選定し、治験の企画、責任分野、作業分担、スケジュール、被験薬データなどの確認と合意を行います。
治験の開始後は、GCP(治験の実施基準)やSOP(標準作業書)に基づいた適切な治験が行われているかどうかの調査と確認(モニタリング)、症例報告書(CRG)のチェックと回収、承認申請書類の作成を行います。
日本国内の代表的なCROとしては、世界的大ヒットを記録した高脂血症治療剤「メバロチン」の開発リーダーを務めた中村和男氏が設立したシミックが売上高で第一位となっており、以下、イーピーエス、世界50カ国に展開しているクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン、メディサイエンスプランニング、シーエーシーと続きます。
世界同時・分担制で治験を実施する「国際共同治験方式」により、新薬を1日でも早く市場に出して売上を最大化することが急務となっています。そんななか、国際共同治験のノウハウに乏しい国内の製薬会社からのCROへの依存度が高まっており、CROはこの10年で急速に成長してきました。
海外の製薬会社における治験外部委託比率が約50%であるのに対し、国内の製薬会社では約20%と低いため、市場の成長余力は今後も十分にあり、各社では採用を活発化しています。看護師としての臨床経験がある方は、CRA(臨床開発モニター)として好条件での転職をするチャンスです。