健康な成人を対象とした第1相試験(フェーズT)の特徴

投与量は少ない

自由意志に基づいて治験への参加を表明した健康な成人に対して開発中の薬剤を投与して、主に薬効・安全性・副作用を調べるのが、第T相試験です。

人に対して初めて薬剤を投与する段階であり、一番重要なことは薬を投与される人の安全性を確保することです。動物と人とは薬の反応性に差があるので、動物試験の成績をそのまま人に当てはめることには限界があります。

薬は通常、小腸などから吸収され血液に入って全身に広がり、代謝されたり、尿として排出されたりしますが、第T相試験では、この薬物動態(薬剤が吸収・分布・代謝・排泄される一連の流れ)と、それに伴う薬剤の体内吸収時間と体外排泄時間に着目することで、薬剤の量と薬効・安全性・副作用との関係性について理解を深めるのです。

実際の試験でしばしば用いられるのは「漸増法」と「反復投与法」です。漸増法では被験薬を少量から段階的に増量し、反復投与法では一定期間にわたって、一定量の薬剤を定期的に投与し続けることで、それぞれ、薬効や副作用の現れる量やタイミングを調べます。

第T相試験は、一般に健康な男性が選べれますが、抗がん剤の場合には、副作用が強いため、がんの患者さんを対象とすることが定められています。

抗がん剤以外の薬剤では、最も副作用の出やすい動物に行なった反復投与毒性試験で毒性の出なかった60分の1の量を、初回の投与量とする方法などが用いられています。

この段階で死亡例や重篤な副作用が現れた場合には、治験は直ちに中止となります。健康な人を対象としているので、投与した薬剤以外に有害事象の原因はまず考えられないからです。第1相試験で健康な人への安全性と有効性が確認できたならば、治験は少数の患者さんを対象とした第U相試験へと進みます。

第1相試験は予測される副作用の種類と程度を知ることが目的です

投与量は少ない

初期の安全性と忍容性を調べることを目的とした試験
第U相試験以降の臨床試験のために必要と想定される用量範囲における治験薬の副作用と、副作用が発生したとしても被験者が十分耐えられる程度(忍容性)を観察して、予測される副作用の種類と程度を知ることを目的としています。

なお、米国で必要とされる最大耐用量(MTD)を明らかにする試験は、日本では要求されていません。

薬物動態を明らかにすることを目的とした試験
治験薬の吸収、分布、代謝といった薬物動態に関する特徴を見いだす試験があります。この中には、薬物クリアランスの評価、腎排泄の比率、薬物相互作用の可能性、薬物吸収に及ぼす摂食の影響、代謝や排泄障害(肝疾患や腎疾患)を有する患者、高齢者、小児のような特定の集団での薬物動態試験などがあります。

薬力学的な評価を行うことを目的とした試験
治験薬の種類によっては、評価項目を工夫して薬力学試験および血中薬物濃度と薬理作用の関連性に関する試験(薬物動態/薬力学的試験)を健常被験者、または治療薬として想定している疾患を有する患者を対象として行なうこともあります。
例えば、高脂血症治療薬や降圧薬としての治験薬では、高脂血症患者や高血圧患者を対象にすることもあります。

効果を探ることを目的とした試験
治験薬の種類によっては、薬効または見込まれる治療上の利益に関する情報を得ることが目的となる試験を行なうこともあります。通常は、副次的な目的とされています。