製薬企業は国際的な競争を勝ち残るためにICHに沿った迅速な申請が求められます

グローバルな競争に勝つ

糖尿病や高血圧に代表される生活習慣病、がん、感染症などの疾患を抱えている患者さんは全世界にいて、皆さんが首を長くして新薬の登場を心待ちにしています。

しかし、医薬品の製造販売に関する許認可の仕組みや規制は国によって大きく異なるため、一つの新薬を海外で販売する際には、その国の規制に沿った手続きを最初から行わなければなりませんでした。

そのため、アメリカでは承認審査が迅速に行われて、患者さんへの投与が開始されているのに、日本で販売するためには、再び一から治験データの収集を行う必要があるため、承認ははるか先というケースが問題になっていました。

そこで、日本、アメリカ、EUの間で、医薬品申請に必要な治験データの相互受け入れを実現して、このような不整合を解決しようと開催されるようになったのが、ICH(日米欧三極医薬品規制調和国際会議)です。

日本からは厚生労働省・日本製薬工業協会(JMMA)、アメリカからは食品医薬品庁(FDA)・米国研究製薬工業協会(PhRMA)、EUからは欧州委員会(EC)・欧州製薬団体連合会(EFPIA)が代表として競技に参加しており、ガイドラインを決定しています。ここでの合意事項は、会議の名前をとって「ICHレギュレーション」と呼ばれています。

医薬品の開発・承認申請を効率化するために、前臨床試験・臨床試験の実施方法や規則、提出する書類などを世界で標準化することは、医薬品市場そのものが統一化されつつあることも意味します。

ICHレギュレーションによって、国境を越えて、世界中で売れている薬は増加しています。なかでも単品売上が10億ドル以上という莫大な金額を稼ぎ出す薬を「ブロックバスター」といいますが、現在では世界市場における総売り上げの3分の1以上はこのブロックバスターで占められています。

そして近年は、単品売上で100億ドル以上を目指す「メガブロックバスター」といわれる医薬品の開発を、大手製薬企業は視野に入れています。これを可能にするのもICHレギュレーションなのです。

今日の医薬品市場において、各国の製薬会社はICHレギュレーションに沿った新薬申請を速やかに行うことが求められています。それができない企業は国際的な競争に参加することも、自国の市場で勝ち残ることも難しくなります。

なぜなら、仮に他社に先駆けて画期的な新薬の開発に成功したとしても、その申請に時間がかかれば、市場投入の段階でライバルに先を越されている可能性が高くなるからです。

ICH(医薬品規制調和国際会議)は2015年に参加国枠を拡大しました

国境を超えた医薬品の開発に関するガイドラインの標準化を目指して発足したICHですが、日米欧に限定して議論を行っていては製薬企業が他の地域にも展開している今日の状況に対応しきれないとして、2015年にそれまでの枠組みを脱し、参加国を拡大することを決定しました。

日米欧の枠組みを超えた国と地域がICHに加盟することで、治験から製造販売後の安全調査に至るまでのプロセスの世界的な標準化に一歩近づくことになります。加盟国が増えることで総会での同意形成が難しくなるのではないかという声も当初は聞かれましたが、現在のところ大きな問題は起きていません。

また同年、ICHは組織を法人格を持つ「医薬品規制調和国際会議」に名称が変更となりました(英語略称のICHはそのまま)。新ICHはガイドライン(GL)の意思決定機関である「総会」、ICHを実質的に運営する「管理委員会」、具体的なガイドラインを検討する「作業部会」などで構成されます。

2023年1月現在、ICHの参加国・団体(投票権を持つICHメンバー:15団体、投票権は持たないICHオブザーバー:35団体)の一覧は以下の通りです。★印は日本です

常任規制当局メンバー 厚生労働省 / 医薬品医療機器総合機構(MHLW/PMDA)、米国食品医薬品局(FDA)、欧州委員会 / 欧州医薬品庁(EC/EMA)、カナダ保健省(Health Canada)、スイスメディック
常任産業会議メンバー 日本製薬工業協会(JPMA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)
規制当局メンバー ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)、中国国家医薬品監督管理局(NMPA)、シンガポール保健科学庁(HSA)、韓国食品医薬品安全処(MFDS)、台湾食品薬物管理署(TFDA)、トルコ医薬品医療機器庁(TITCK)、サウジ食品医薬品庁(SFDA)、メキシコ連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)
業界団体メンバー バイオテクノロジーイノベーション協会(BIO)、国際ジェネリック・バイオシミラー医薬品協会(IGBA)、世界セルフケア連盟(GSCF)
常任オブザーバー 世界保健機構(WHO)、国際製薬団体連合会(IFPMA)
規制当局オブザーバー アゼルバイジャン保健省分析センター(AEC)、アルゼンチン医薬品食品医療技術管理局(ANMAT)、アルメニア医薬品医療技術専門科学センター(SCDMTE)、イスラエル保健省医薬品・監督センター(CPED)、イラン国家規制当局(NRA)、インド中央医薬品基準管理機構(CDSCO)、インドネシア共和国食品医薬品庁(BPOM)、ウクライナ保健省専門家センター(SEC MOH)、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)、エジプト医薬品庁(EDA)、オーストラリア医療製品管理局(TGA)、カザフスタン国家医薬品医療機器専門機関、キューバ国家医薬品医療機器管理機関(CECMED)、コロンビア医薬品食品監督庁(INVIMA)、シンガポール保健科学庁(HSA)、台湾食費管理署(TFDA)、マレーシア国家医薬品規制庁(NPRA)、南アフリカ医療製品規制当局(SAHPRA)、メキシコ連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)、モルドバ医薬品医療機器庁(MMDA)、レバノン公衆保健省(MOPH)、ロシア連邦保険・社会発展省、
地域調和イニシアティブ アジア太平洋経済協力(APEC)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、汎アメリカ医薬品規制調和ネットワーク(PANDRH)、湾岸協力理事会(GCC)、東アフリカ共同体(EAC)、南部アフリカ開発共同体(SADC)
業界団体オブザーバー 医薬品原薬委員会(APIC)
医薬品関連国際団体 ★医薬品査察協同スキーム(PIC/S)、国際医学団体協議会(CIOMS)、米国薬局方(USP)、欧州医薬品医療品質部門(EDQM)、国際医薬品添加物機関(IPEC)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill & Melinda Gates Foundation)、