大型製品の登場で市場が拡大するバイオシミラー(BS)の一覧(2022年度)

診療報酬改定でBSの普及を後押し

遺伝子組み換え、細胞増殖などで人工的に生成したタンパク質を有効成分とする医薬品をバイオ医薬品といいます。主に化学反応を用いて生成された従来の医薬品(低分子医薬品)が体の正常な細胞にも作用してしまうのに対し、バイオ医薬品は、疾患の原因物質をピンポイントで狙い撃ちすることで効果を高めるだけでなく、正常な組織へのダメージを低く抑えることができる(=副作用が出にくい)のが最大の特徴です。

また糖尿病のインスリン製剤、貧血治療のエリスロポエチン製剤など、体内で生成されるタンパク質の不足を補う治療(補充療法)にも使用されています。

ただし、製造工程で高度な技術が必要となるためバイオ医薬品を開発・製造できる製薬企業は限られており、また従来の医薬品に比べて価格が高くなるという課題があります。また錠剤や散剤・顆粒剤、シロップなどの剤形で服用すると体内で消化・分解されてしまうため、主に注射剤しか選択肢がありません。

低分子医薬品とバイオシミラーの違い

このバイオ医薬品の特許期間が終了した後に、他の医薬品メーカーが製造した後発薬をバイオシミラー(略してBS:バイオ後続品)といいます。通常のジェネリック医薬品と同様に、先発品と同等の有効性と安全性を持ち、薬価も先発品の70%と低く抑えられています。ただし、バイオ医薬品は先発品の薬価自体が高めなので、30%を割り引いたとしても依然として通常の医薬品よりも高額となります。

"同一"ではなく、何故"シミラー(similar:似ている)"という表記なのかというと、バイオ医薬品は構造が複雑なため、先発品と全く同一の薬を製造することは困難なためです。対してジェネリック医薬品は、先発薬と"同一の有効成分(構造式)"が"同一量"含まれています。バイオシミラーとジェネリック医薬品の違いはここにあります。

関節リウマチ治療薬のレミケード、ヒュミラ、抗がん剤のアバスチン、ハーセプチンなどグローバル市場の大型製品もバイオシミラーとして登場しています。通常のジェネリックに比べて製造が難しいということは、参入障壁が高いことを意味します。小・中規模の製薬企業にとって参入障壁の高さはネックとなっても、ビッグファーマやメガファーマと呼ばれる大企業にとっては逆に市場でシェアを伸ばすチャンスです。そのため日医工に代表される後発医薬品メーカーだけでなく、ファイザーやサノフィ、第一三共などの大手の先発医薬品メーカーもバイオシミラー市場に参入しています。

バイオシミラーの国内の市場規模は、2025年度までに1,000億円を超えると予測されています。国内の医療用医薬品の売上で1、2位を争っているオプジーボとキイトルーダ(2021年は共に1,100億円台の売上)のバイオシミラー開発を目指す方針を打ち出した製薬企業も出ており、今後の市場の更なる活性化が期待されています。

日本国内で販売されているバイオシミラーの一覧(2023年1月末現在)は以下の通りです。全ての製品名に入っている「BS」は「BioSimilar:バイオシミラー」の略語で、医療関係者が一目見てわかるように工夫されています。

バイオシミラー(BS:バイオ後続品)の一覧
疾患領域 先発医薬品名 バイオシミラー製品名 BS開発・販売企業
がん アバスチン ベバシズマブBS点滴静注 ファイザー、第一三共、日医工
ハーセプチン トラスツズマブBS注 ファイザー、第一三共、日本化薬、セルトリオン
リツキサン リツキシマブBS注 ファイザー、サンド/協和キリン
関節リウマチ レミケード インフリキシマブBS注 ファイザー、日医工、日本化薬、セルトリオン、あゆみ製薬
エンブレル エタネルセプトBS皮下注 持田製薬/あゆみ製薬、陽進堂/YLバイオロジクス/帝人ファーマ、日医工
ヒュミラ アダリムマブBS皮下注 第一三共、持田製薬、協和キリン富士フイルムバイオロジクス/マイランEPD
糖尿病 ヒューマログ インスリン リスプロBS注 サノフィ
ノボラピッド インスリン アスパルトBS注 サノフィ
ランタス インスリン グラルギンBS注 イーライリリー、富士フイルム富山化学/三和化学
腎性貧血 ネスプ ダルベポエチン アルファBS注 協和キリンフロンティア、JCRファーマ/キッセイ薬品、三和化学/キッズウェルバイオ、マイランEPD、陽進堂
エスポー エポエチン アルファBS注 JCRファーマ
成長ホルモン分泌不全性低身長症 ジェノトロピン ソマトロピンBS皮下注 サンド
骨粗鬆症 フォルテオ テリパラチドBS皮下注 持田製薬
ファブリー病 ファブラザイム アガルシダーゼ ベータBS点滴静注 JCRファーマ
好中球減少症 グラン フィルグラスチムBS注 持田製薬、武田テバ、日本化薬、サンド、富士製薬
加齢黄斑変性症 ルセンティス ラニビズマブBS硝子体内注射用キット キッズウェルバイオ、千寿製薬